ロンドンでおすすめのモダニズム建築10選

ガイドブックにはのっていないロンドンで見ておきたい建築物10選

ロンドンには歴史的な建物だけでなくモダニズム建築の観点からもインスピレーションが得られる魅力的な建築物が数多くあります。

トムフォルクナー社はロンドンに本社を置き、スウィンドンという地方都市にワークショップ(工房)があるため、私たちはそれら二つの拠点を行き来することで、全く異なる風景の中に美しさを見つけることがあります。Barbican(バービカン)のようなブルータリズム建築、パディントン駅のような革新的な建築技術もそうですが、モダニズム建築はデザイナーであり創業者のトムのデザインの基礎となっています。クリエイティブな外観の建物が沢山あるため、その中からトップ10を選ぶのは至難の業でしたが、ロンドンの象徴的な建築物からインスピレーションを得られればと思い、私たちののお気に入りをいくつかご紹介します。

Text by Annabel Colterjohn

(この記事はオーセンテリアの取扱いブランドであるトムフォルクナー社のJournalを元に構成したものです。)

1. Battersea Power Station

1930年代、レナード・ピアース、J・セオ・ハリデイ、ジャイルズ・ギルバート・スコットの設計により、石炭火力発電所として建築されたロンドン南西部のスカイラインではシンボル的存在です。当時は世界最大のレンガ造りの建物で、アールデコ調の内装が印象的な建物として有名でした。当初はロンドンの電力の5分の1を供給していましたが時代は移り変わり、1980年に第2級建築物に指定されましたが、発電所は閉鎖され、この建物は何十年も静かに眠っていました。廃墟になりかけていた2014年、マレーシアの投資家たちが、この場所を活気あるコミュニティの拠点に変える計画に乗り出しました。現在、バタシー・パワーステーションは、ショップやレストラン、ホテル、住宅、そして美しくデザインされた共有スペースで構成され、コンバージョンの最終段階を迎えています。ノーマン・フォスターとフランク・ゲーリーの指揮のもと、非常に壮大なサイトとなることが期待されています。

2. Natural History Museum

ロンドン自然史博物館が最初に開館したのは1881年の春ですが、その歴史は1700年代にまでさかのぼります。当初は大英博物館に展示されていたハンス・スローン卿のコレクションが展示の中心でした。リチャード・オーウェン卿は、これらの大切な品々には自分たちの家が必要だと考え、貴重なコレクションを収蔵する大規模な施設「自然への聖堂」を構想しました。そして建築家アルフレッド・ウォーターハウスに設計を任せました。建物はウォーターハウスの解釈によるロマネスク様式で、ヴィクトリア朝のロンドンの荒々しい雰囲気にも合うようにテラコッタを使用しています。自然史博物館として建設されたため、植物のモチーフや石でできた動物のオブジェなど細部にまでこだわりが見られます。ウォーターハウスは、彫刻になる動物の描写に細心の注意を払い、その形が生物学的に正確であることを一体ずつオーエンに確認しました。その結果、情熱と配慮をもってデザインされたこの建物は、私たちの街ロンドンに自然界の驚嘆をもたらすことになりました。

3. Smithfield Market

スミスフィールド・マーケットは、歴史に彩られた場所です。10世紀以来、この場所には家畜市場がありましたが、当時はインフラが整っていなかったため、「スムースフィールド(平らな野原)」と呼ばれていたそうです。屋根付き市場は19世紀にタワーブリッジの建築家、ホレス・ジョーンズ卿によって設計されました。この屋根付き市場は、スタイル的にも機能的にも近代化を具現化する兆しを見せています。国内初の冷蔵倉庫や、新たに設計された鋲打ち鉄板の「フェニックス柱」などがその代表です。これらの技術革新の成果は、何世紀にもわたって繰り広げられてきた賑やかな家畜の取引と共にこの地に受け継がれています。

4. Barbican Estate and Barbican Centre

バービカン・センターは、世界有数のパフォーミング・アート施設であり、ブルータリズム建築のスタイルと優れた美観で知られています。しかし、このセンターがある土地についてはあまり知られていません。バービカン・エステートは、戦後のユートピア主義を体現した建築で、ブルータリズムの限界に挑戦し、荘厳な水の処理と徹底的にオリジナルでフォーマルなアプローチによって、その地位を確立しています。半水式庭園、巧みにモジュール化された居住ユニット、アーチのモチーフにはさまれた大きな張り出しが特徴的です。低層部には逆アーチ型の窓があり、リフレクティングプールと組み合わせは、まさに圧巻の一言です。20世紀半ばにイギリスのトリオ、チェンバリン、パウエル、ボンが設計したこのエステートは、デザイン好きにはたまらない、まさに都会の遊び場なのです。

5. Paddington Station

パディントン駅は、トムが特に気に入っている建物のひとつです。トムは言います。

「ロンドンに住んでいて、スウィンドンに工房があることの楽しみのひとつは、イザムバード・キングダム・ブルネルの最も優れた業績の一つであるパディントン駅に頻繁に訪れることです。金属とガラスでできた大聖堂のようなこの建物は、その驚くべき美しさだけでなく、200年経った今もなお機能していることから、人々に感動を与えてやまないのです。外からはほとんど見えませんが、中に入るとさらに息をのむような美しさです。この駅からなら、どんな旅でも素晴らしいスタートを切ることができます...」

トムがデザインするすべての家具は、この場所とユニークなつながりをもっています。なぜなら、スウィンドンにある私たちの工房は、偶然にも同じ偉大な実業家であるイザムバード・キングダム・ブルネルによってデザインされたものだからです。かつて私たちの工房はGreat Western Coachworksと呼ばれ、パディントン駅に出入りする列車を収容・修理する場所として使われていました。英国の産業史の一端を知ることができるのは光栄なことであり、私たちの仕事の励みにもなっています。

6. Coal Drops Yard

コール・ドロップス・ヤードの歴史は、石炭が主要なエネルギー源であったヴィクトリア時代にさかのぼります。イングランド北部からキングスクロス駅経由で運ばれてきた石炭を貯蔵していたのがこの場所でした。1800年代以降、この土地はさまざまな姿に生まれ変わりました。カウンターカルチャーのアーティストが住み、しばしば映画のセットとして使われ、ロンドンで最も騒々しいイベントが開催されたこともあります。近年、デザイナーのトーマス・ヘザーウィックは、イベント色を排除し、真のクリエイティビティを求める場所として維持され、2018年のリニューアルオープン以来、この場所にはレストランやバー、ショップが立ち並び、デザインのハブのような役割を果たしています。奥まで足を踏み入れなくても、この工業地帯の現代的なリデザインを十分に味わうことができます。

7. Shakespeare’s Globe

シェイクスピア・グローブは、エリザベス朝時代の劇場の原型を楽しく再現したものです。テムズ川の南岸にあるこの場所は、シェイクスピアの作品が上演された場所です。1997年にテオ・クロスビーが設計したこの新しい建物は、その前に建てられた2つの劇場とシンクロしています。最初の建物は、1599年にシェイクスピアが所属していたLord Chamberlain’s Menによって建てられました。シェイクスピア自身は、この建物を「木製の”O”(オー)」と表現し、円形の建物は演劇を楽しむためにデザインされました。中央の庭に屋根がないため、自然光のもとで野外劇が行われます。その日の天候がどうであろうと、数々の名作を生んだこの地の伝統を受け継いで、ショーは華やかに繰り広げられています。

8. British Library

大英図書館には、貴重な歴史の断片が数多く収蔵されています。グーテンベルク聖書のベラム版から、ビートルズのオリジナル曲の楽譜まで、あらゆるものがここにあります。また、真っ赤に燃えるような色合いの建物や飾りのない幾何学的なデザインが印象的です。この巨大な建物は、1970年代にコリン・セント・ジョン・ウィルソン卿とMJ・ロング氏が設計したものですが、オープンしたのは1998年のことでした。ウィルソンは、スカンジナビアのデザイン原理を取り入れ、アルヴァ・アアルトのようなデザイナーにインスピレーションを受けながら、モダンなスタイルで仕事をしました。彼は、対称性などの古典的な概念から離れ、デザインの「ルール」から逸脱した不規則な形状に行きつきました。ウィルソンはまた、前職である海軍中尉としての経験にも影響を受けています。遠くから全体を眺めると、建物の輪郭である一見無作為なラインがすべて集まって、船の形を連想させます。訪れるたびに新しい発見がある、実にユニークなデザインなのです。

9. Michelin House

ミシュランハウスは、どのスタイルにも当てはめることができない建築物です。アールヌーボーと呼ぶ人もいれば、幾何学的古典主義の作品と主張する人もいます。いずれにせよ、明るいデザインの砦として、その地位を確立しています。1911年、ミシュランの社員だったフランソワ・エスピナスによって、フランス企業の英国本社として建設されました。ミシュランのマスコットであるビバンダムは度々グラスを掲げていますが、ビバンダムの語源はラテン語の「Nunc est Bibendum」(今こそ飲む時)というフレーズから来ています。ビバンダムは、ステンドグラスやモザイクにも描かれており、テレンス・コンランによる1980年の改装時にも、その姿を残しています。現在、ミシュランハウスには、2つの素晴らしいレストラン、フラワーショップ、リテールスペース、そしてコンラン本社があります。

10. 2 Willow Road

2 ウィローロードは、モダン住宅建築の原型となる作品です。1938年、ハンガリーの建築家・家具デザイナーであるエルヌー・ゴールドフィンガーによって設計されたものです。ゴールドフィンガーの作品の中で最もよく知られているのはトレリック・タワーのフラットかもしれません。このプロジェクトは、当時としてはあまりに斬新で周囲と調和しない建築スタイルのため、多くの論議の的にされました。007 ジェームズ・ボンドの作者であるイアン・フレミングのようなハムステッドの地元の人々は、ゴールドフィンガーの計画に激しく反対し、彼の最も有名な悪役の一人にこの建築家の名前を付けることで(『007 ゴールドフィンガー』)確執を決定的にしました。それでも、3棟のテラスハウスは建設され、ゴールドフィンガー一家は、一番大きなセントラルユニットに移り住み、モダンな雰囲気のインテリアに仕上げました。機能性を重視した空間ではリッチなウッドパネルが温かみをもたらし、流線型のデザインの家具や世界的なモダンアートがまばらに飾られています。この場所は、ナショナル・トラストによって好奇心旺盛なビジターのために、このシンプルでありながら見事なモダン住宅を建てた先駆者の感性を受け継ぎ、現在でも維持管理されています。

Text by Annabel Colterjohn

関連記事