トムおすすめ、世界の小さな美術館
小さな美術館の親しみやすく居心地の良い雰囲気には、何とも特別な魅力があります。それは、芸術運動のムーブメントを起こしたアーティストの元邸宅であったり、個人収集家の大切な宝物の華やかな展示であったり、こうした場所はアート作品の背景にあるストーリーを感じさせてくれます。
今回は、トムフォルクナーとそのチームがセレクトしたお気に入りの小さな美術館を10ヶ所ご紹介します。トムが旅行の際に訪れてインスピレーションを受け、彼のデザイン制作にも多く影響を与えています。
バーバラ・ヘップワース美術館と彫刻庭園
イギリス、セント・アイヴスにあるバーバラ・ヘップワース美術館と彫刻庭園は、トムのお気に入りの場所の一つです。コーンウォールの険しい崖の上に位置し、この地が彼女に沢山のインスピレーションを与えた場所と感じ取ることができます。彼女の作品は彫刻庭園の広い空の下で活き活きと展示され、彼女のスタジオはまるで彼女が亡くなったその時のままのように残されています。小さな美術館には、彼女の繊細な作品が展示されており、現代イギリス彫刻を形作ったアーティストの生活について見ることができます。
クリーガー美術館
クリーガー美術館は、アメリカ、ワシントンD.C.にあるカーメンとデイヴィッド・クリーガー夫妻の元邸宅です。建築はローマのヴィラを現代的に解釈した建物で、フィリップ・ジョンソンとリチャード・フォスターの作品。建築を愛する人々にはこの建物自体も魅力的でしょう。1963年に住宅として設計されましたが、同時にその後美術館として使用されることも見越してデザインされ、2つの役割を完璧に両立させています。美術館内には、クロード・モネ、ワシリー・カンディンスキー、アレクサンダー・カルダーといった著名な作家の作品を始め、近代および現代のアートが展示されています。緑豊かな住宅街に囲まれたこの場所は、コレクターが愛したアートを、彼らの目線になって鑑賞できるユニークな雰囲気があります。
サー・ジョン・ソーン美術館
サー・ジョン・ソーン美術館は、イギリス、ロンドンを拠点とした新古典主義建築家、ジョン・ソーン卿の元邸宅です。彼の図面や建築模型、そしてアートやアンティークのコレクションが美しく展示されています。この場所は、修復作業により非常に生き生きと当時の様子を保っています。注目のアート作品としてはカナレットやターナーの作品が、さらにエジプト、ギリシャ、ローマの魅力的な古代の遺物も加わり、彩りを添えています。なんとも素晴らしいことに、館内には一度に90人しか入れず、説明パネルや照明は控えめにされているため、親しみやすく家庭的な雰囲気を楽しむことができます。
ペギー・グッゲンハイム・コレクション
イタリア、ベネチアにあるペギー・グッゲンハイム・コレクションは、その名を冠したペギー・グッゲンハイムの、アートとアーティストへの情熱を表現した場所です。かつて彼女の住居であったこの場所は、ペギーが現代アートの多くの著名な人物たちと親しく交流していたことから、活気に満ち、ストーリーにあふれた歴史を持っています。パブロ・ピカソ、サイ・トゥオンブリー、ジャクソン・ポロックの作品が、このかつて住宅だった空間で力強く輝き、驚くほどカジュアルに交じり合っています。このベネチアの宮殿は未完成のまま残されており、それは魅力的な現代的な質感を与え、ペギーとその仲間たちの創造的な感受性を示しています。
ノグチミュージアム
アメリカ、ニューヨークにあるノグチミュージアムは、日系アメリカ人デザイナー、イサム・ノグチの作品を展示しています。彼は、伝統的な日本の技法と自然素材の素朴な美しさへの敬意を反映させた現代的な家具や照明デザインでよく知られています。彼のライト・スカルプチャーは見どころで、柔らかい黄金色の太陽のような球体が空間を満たします。美術館は平和的で瞑想的な質感が空間全体に広がり心地よく、また庭園ではノグチの彫刻作品を見ることができます。
カンパ美術館
チェコ、プラハのカンパ美術館は、アートコレクター、メダ・ムラドコヴァの個人コレクションを展示しています。美術館は、ヴルタヴァ川の岸に佇む10世紀まで遡る歴史あるソヴァの水車小屋の中にあり、非常に理想的な環境を提供しています。建物は美しく修復され、現代的なガラスの壁が新たに加えられています。美術館では中央ヨーロッパのアートに焦点を当て、特にチェコ文化に強い重点を置いています。企画展示では、国際的な現代アート界の著名なアーティストたちが登場します。かつての東側諸国(共産圏)の抽象的な現代アートが主役となっており、ヨーロッパ全体に広がりを見せた地元発のアートムーブメントのルーツを照らし出しています。
アトリエ ブランクーシ
アトリエ・ブランクーシは、フランス、パリにあるポンピドゥーセンターの横に位置しています。ルーマニアのアーティスト、コンスタンティン・ブランクーシは、1904年から1957年にこの世を去るまでパリに住み活動し、パリと強いつながりを持っています。彼がフランスに残した最後の贈り物は、自身のスタジオにあった彫刻や絵画、そして彼の使用した道具たち。建築家レンゾ・ピアノは、この空間をできるだけ忠実に再現し、アーティストの内面を体現するレコードや書籍、写真などの断片も含めて、彼の生活を感じさせるように再構築しました。
ポンピドゥーセンターは大規模改修工事のため2025年9月に閉館、2030年の再オープンまで休館する予定となっています。
ロダン美術館
ロダン美術館は、フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンの名高い作品に捧げられた美術館です。美しいビロン邸宅に収められており、パリ郊外にあるロダンの元邸宅にも別の展示スペースがあります。ロダンはビロン邸を自身のアトリエとして使用し、この2つの場所を行き来していました。
ロダンの作品が、まるで生まれた場所そのもので展示されているのを見るのは特別な体験であり、制作された部屋や庭園に溢れ出している光景は圧巻です。『考える人』や『接吻』など、ロダンの最も愛されている彫刻作品の多くがここに収められており、彼の作品を愛する多くの人々にとって、訪れるべき重要な場所となっています。
チナティファンデーション
チナティファンデーションは、アメリカ、テキサス州マーファの別世界のような広大な風景の中に位置する現代アートの美術館です。この美術館は、米国アーティストのドナルド・ジャッドの思想に基づいており、彼は「一部のアートはその環境から切り離すことができない」と感じていました。ここでは、アートを生き生きとさせる自然の要素などの環境に重点を置いています。ジャッドや他のアーティストの作品の、鋭く幾何学的な形状や自然との相互作用が柔らかさとダイナミズムをもたらし、ユニークな空間を作り出しています。
ドーリア・パンフィーリ美術館
ドーリア・パンフィーリ美術館は、イタリア、ローマ最大の個人アートコレクションを所蔵しており、婚姻によって結ばれた4つの貴族の財産であるアート作品を展示しています。バロック様式の宮殿は現在も家族の所有であり、建物自体も一つの芸術作品です。アートコレクションの大部分は、中央の中庭を囲む客間に散りばめられており、その中庭は豊かな緑で溢れています。また、チャペルも大きな見どころで、華麗なモールディングと目の眩むような天井画が印象的です。16世紀と17世紀のアート愛好家は、その規模と品質、そして豪華な家具に圧倒されることでしょう。コレクションにはラファエロやティツィアーノなどが含まれており、最も重要な作品はディエゴ・ベラスケスの『教皇インノケンティウス10世の肖像』でしょう。その素晴らしいコレクションにもかかわらず、ドーリア・パンフィーリ美術館は比較的隠れた名所であり、アート愛好者にとって、世界に名高いアートを心地よく楽しむには最適な場所です。
壮大なスケールの大きな美術館も見応えがあって素敵ですが、小さな美術館で厳選されたアート作品をゆっくりと見るのも心地よい時間ですね。日本にもたくさんの小さな美術館があり、それぞれの特色があり魅力的です。より身近でアートを感じられる小さな美術館ではインスピレーションをたくさん得られるかもしれません。
Original text by Annabel Colterjohn